世界初ブロックチェーン技術が導入された、シエラレオネ大統領選挙

ブロックチェーンの特徴である分散型台帳は、金融以外の幅広い分野への応用が期待されています。

ブロックチェーン技術はプラットフォームの参加者間での情報の共有や取引情報を時系列に記録することを前提としているため、IoT、認証及び商流管理を含む多くの分野での可能性が探られています。今回ご紹介するのは、ブロックチェーン技術が実用化した例の一つ、シエラレオネでの大統領選挙です。

世界初・シエラレオネでブロックチェーンを追跡に利用した選挙を実施

2018年3月7日、西アフリカに位置するシエラレオネで大統領選挙がおこなわれました。そして、その選挙結果の追跡に、世界で初めてブロックチェーン技術が使用されました。

シエラレオネ政府は、スイスの投票用ブロックチェーンのスタートアップ企業であるAgora(アゴラ)社の協力を得て、この投票の結果追跡を実施しました。シエラレオネ政府がブロックチェーン技術を採用した理由は、「現存する投票システムの中で、偽造が不可能で、かつ最も透明性が高いから」と語っています。政府の選挙でブロックチェーン技術が使用されたのは、これまでに世界でも前例がありません。

誰もが投票データ観察を可能に

アゴラ社は欧州委員会、赤十字社、スイス連邦工科大学、フリブール大学と提携し、選挙全体をサポートしました。採用された技術は、許可された個人ブロックチェーンを適用したプライベート型のブロックチェーンです。投票者が投票用紙で投票を完了した後、公平な監視人を持つチームが、内容をブロックチェーンに登録する手順を取りました。これにより、投票後誰もがデータを観察できるようにすることが可能になったと報じています。

導入の結果、アゴラ社のチームはシエラレオネ西区だけでも86%が結果と合致しており、選挙委員会と全NGOの収集結果より、2時間も先に公表できたことを発表しています。選挙の集計にブロックチェーンを導入することで、選挙の合法性に対する信頼を向上させることが可能になり、かつ投票結果の即時性が高まった選挙になったのでは、と評価されています。

多方面に活用が期待されているブロックチェーン

ブロックチェーンが画期的なのは、インターネットのように不特定多数のコンピュータが自由に参加できる状況において、中央管理者不在でも参加者間で合意形成ができることにあります。各参加者が同一の台帳を持ち合い、中身の妥当性を検証しあうことで、全体としての整合性と公平性が保たれるのです。また、執行条件と執行内容をあらかじめプログラムで定義しておく、イーサリアムが持っている有名なスマートコントラクト技術を導入することにより、条件に合致したイベントが発生すると自動執行する仕組みも可能です。そしてこのスマートコントラクトとブロックチェーンを組み合わせることによって、「Decentralized Autonomous Organization=DAO(自律分散型組織)」が成立します。自律分散型組織は、中央の管理主体が存在しなくとも、分散型で自動的・自律的に統治される組織形態を構築します。 つまり、これを投票に適応すると、投票者自身が、選挙を監査でき、さらに透明性の高い投票を実現するのです。

経済産業省は2016年の「Blockchainに関する最近の動向」で、ブロックチェーンの社会やビジネスに与えるインパクトは、金融業界にとどまらず さまざまな分野に及ぶと試算しています。既に電子マネーとして地域通貨のように特定範囲内での価値の流通を促すプラットフォームは成立しているほか、食品などの生産・取引データを記録するトレーサビリティを監査したり、映画や音楽などの著作物の管理、ダイヤモンドや宝石などの真正性の証明での応用など様々な分野で考えられます。

行政の効率化を推進

アゴラ社は既にアフリカやヨーロッパの複数の国々と交渉を開始しており、もし行政がブロックチェーンによる選挙を導入すれば、現在かかる費用の約70%がカットできるビジネスモデルを構想しています。今回の投票は、行政分野におけるブロックチェーン技術で行政の効率化を推進することが可能になっていることを実証しています。投票の他、行政で活用できる例として、文書管理、特許、土地登記、徴税、婚姻・出産届等が、ブロックチェーンを活用して効率的に行われる可能性が探られています。

こうしてみると、ブロックチェーンの分散型システムは、その革新性や応用可能性から、大いに期待を集める技術であることが分かります。日本もこのような活用事例を参考にして様々な分野に自動化や自律化を促進できれば、 人手不足を迎える社会にとって、ブロックチェーン技術の有用性が高まるといえるでしょう。

 

参考文献:

日本総研 「IoTにおけるブロックチェーンの適用可能性について 」

経済産業省「Blockchainに関する最近の動向」

Business Insider「Sierra Leone just became the first country in the world to let its citizens vote using lockchain」